「老化・寿命研究の最前線」part1:若返りも実現可能に?

NMN

本日は老化寿命研究の最前線、特にNMNを中心とした抗老化医療の未来に関して、ワシントン大学医学部教授、今井眞一郎先生からお話を伺います。今日は最新の研究結果を取り入れたため、予定より時間が長くなる可能性がありますが、老化寿命研究の進展についてご説明いたします。

老化や寿命の制御プロセス

次に、19世紀末にジョンウィリアムウォーターハウスによって描かれた「パンドラ」の絵について話しましょう。ギリシャ神話において、パンドラはゼウスによって創造された最初の女性であり、多くの才能と美貌を与えられました。彼女の好奇心から、禁じられた箱を開けてしまい、その結果、世界に多くの厄災がもたらされました。

プロメテウスは人間への愛からオリンポスの火を盗み、それを人間に与えました。これに激怒したゼウスは、エピメテウスに「絶対に開けてはいけない」と言われた箱を渡しました。この箱の中には厄災や疾病が詰め込まれており、パンドラはこの箱を開けてしまいます。これにより、数々の災害が人間界に広がりました。

超高齢化社会は「厄災」とも言える

これらの話は、今日の講演のテーマと深く関連しており、私たちはこの神話から現代社会における厄災、特に超高齢化社会の課題について学ぶことができます。

箱の中から聞こえてきた小さな声は、「どうか開けてください。私を出してください」という懇願でした。この話題は、私の講演の最終部で再度触れたいテーマであり、現代社会の超高齢化を一種の厄災と捉えていることに関連しています。

世界中で進行中の超高齢化は、日本、アジア各国、ヨーロッパを含む多くの地域で急速に進んでおり、少子化問題と共に深刻な社会経済的課題を引き起こしています。これらの問題への対策は世界的に重要です。

高齢化社会問題

1970年当時の日本の人口構成はピラミッド型であり、その中で突出していた部分は第一世代ベビーブーマーです。2025年問題は、このベビーブーマー世代が後期高齢者になることに関連し、医療費の増大など深刻な圧迫をもたらすと予測されています。また、その後続く第二世代ベビーブーマーの影響も2025年以降明らかになり、2050年には少子化の進行とともに人口構成が逆ピラミッド型に変わることが予想されています。

この状況では、65歳以上の高齢者が人口の4割を占めるようになり、老齢人口を支える労働人口の負担が増大します。これにより、社会保障制度に対する圧力が極めて大きくなると予測されています。

これらの課題にどのように対処していくかは、私たちが取り組むべき重要な問題です。その解決策の一つとして、プロダクティブエイジングのコンセプトが注目されています。これは、高齢になっても健康で活動的な生活を送ることを目指すもので、アメリカの国民健康保険機関に関連する概念です。

プロダクティブエイジング、俗に「ピンピンコロリ」と表現される生活様式の実現は、健康で活力に満ちた老後を過ごし、最終的には穏やかに人生を終えることを意味します。しかし、この日本独特の表現は国際的な理解を得られるものではありません。したがって、私たちの目標は、科学的に検証された老化寿命研究のメカニズムを理解し、それを基にした具体的な健康維持・増進策を策定することです。

NADワールド

ワシントン大学で行われている私の研究は、老化プロセスと寿命を制御する要素に焦点を当てています。研究では、哺乳類における老化のコントロールセンターの存在、その機能、そして体内の他の臓器や組織との相互作用について検証しています。2009年、私たちは老化と寿命の制御プロセスに関する統一的な理論、「NADワールド」を提唱しました。これは、生物学的リズムと老化制御を結びつける重要な概念であり、NADの代謝やその調節が中心的な役割を果たしています。

具体的には、NADワールド理論では、サーチュイン酵素やNAD合成に不可欠なNAMPT酵素が重要なコンポーネントとして機能しています。これらの要素が相互に作用し合い、老化プロセスの制御と寿命決定に関与しているのです。この理論とそれに基づく研究成果は、将来の老化防止策や健康寿命延伸の可能性を大いに広げています。

NADワールドの概念は現在、その第三版に至っております。この理論は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)という、生命維持に不可欠な物質を中心に展開されています。NADは生物学的リズムと老化制御の間の重要な連結点を提供し、このリズムと結びついたエネルギー代謝の調整に関わっています。

NADワールドの制御メカニズムには、サーチュイン酵素群、特にサーティン1が重要な役割を果たします。これらの酵素は、例えばインスリンの分泌促進など、多くの臓器や組織での代謝制御に関与しています。私たちは、これらのメカニズムがどのように脳の機能を調整しているかについても詳しく研究しており、サーティン1や他のサーチュイン酵素がエネルギーを使用して様々な生理機能を実現していることを理解しています。

NAD生成システム

さらに、NADの合成を促す重要なシステムとしてNAD生成システムがあります。これらの知見は、エネルギーワールドの理論を補強し、私たちの老化と長寿に関する理解を深めるものです。

NAD生成システムにおける中核となる酵素は、ナムプチダーゼ(Nampt)と呼ばれ、NAD生産に不可欠です。このNAMPT酵素によって、エネルギーワールドのシステムは、サーチュインおよびサーティン1と共に機能し、これらはまるで車の両輪のように互いに協調して老化のプロセスと寿命を制御します。このシステムの概念は2009年に提唱され、その後、多くの研究者により発展が続けられました。

特に、2013年には視床下部が哺乳類の寿命制御の中心となることが発見され、このシグナルは骨格筋に伝達され、それがさらに他の組織や臓器に影響を及ぼすことが示されました。脂肪組織は、コントロールセンターである視床下部へNAD生産に必要なシグナルを送るモジュレーターとしての役割を果たしています。

これらの発見により、老化の過程がどのように制御され、寿命がどのように決定されるかの理解が深まりました。これは、エネルギーワールド理論の重要な成果であり、次のバージョンへの進化を示しています。

出典

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